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■ 慢性濫読 ■

最近めっきり物忘れがひどいので、簡単な読書メモです。ミステリ多め

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 』桜庭 一樹  

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)
(2004/11)
桜庭 一樹

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内容(「BOOK」データベースより)
大人になんてなりたくなかった。傲慢で、自分勝手な理屈を振りかざして、くだらない言い訳を繰り返す。そして、見え透いた安い論理で子供を丸め込もうとする。でも、早く大人になりたかった。自分はあまりにも弱く、みじめで戦う手段を持たなかった。このままでは、この小さな町で息が詰まって死んでしまうと分かっていた。実弾が、欲しかった。どこにも、行く場所がなく、そしてどこかへ逃げたいと思っていた。そんな13歳の二人の少女が出会った。山田なぎさ―片田舎に暮らし、早く卒業し、社会に出たいと思っているリアリスト。海野藻屑―自分のことを人魚だと言い張る少し不思議な転校生の女の子。二人は言葉を交わして、ともに同じ空気を吸い、思いをはせる。全ては生きるために、生き残っていくために―。これは、そんな二人の小さな小さな物語。渾身の青春暗黒ミステリー。



父を事故で亡くした中学2年の山田なぎさは、スーパーのパートで働く母と、引きこもりの兄の3人で生活保護を受けながら暮らしている。
家族仲は良いが生活は苦しく、中学を卒業したら高校に行かずに自衛隊に入り、生活力という“実弾”を早く手に入れたいといつも願っていた。
そんななぎさのクラスに東京から転校してきたのは、芸能人の娘・海野藻屑だった。
元アイドルシンガーで現在は作詞家の父と女優の母をもつ藻屑は、人目を引く美人で、ブランドものの服に身を包み、大きな家に父と二人きりで住んでいる。
しかし、自分は人魚だと言い張ったり、周囲と馴染もうともしないエキセントリックな言動で、次第にクラスで孤立してゆく――リアリストのなぎさから見た藻屑は、砂糖菓子の弾丸をぽこぽこと撃ちまくっているようで好きになれなかったが、なぜか藻屑はなぎさにつきまとう。
そして、偶然目にした藻屑の体に残された多数の痣の理由に気づいてしまう。




ライトノベルながら、ミステリとしても大変評価の高い作品ということで、表紙に躊躇しながらも読んでみました。
桜庭さんの文体は『赤朽葉家の伝説』で慣れて、むしろ好きになっていたので大丈夫だったんですが、藻屑の言動やルックスが登場するなり奇妙で、どうなることかと不安でした。
でも、読み進めるうちに……だいぶ後になって、藻屑の秘密が見え始めてからですが、なぜ彼女が“そういう子”になったのかが納得できて悲しくなります。

なぎさも藻屑も、家庭に問題を抱えていて、それは何も彼女たちが悪いわけではないし、子供の力ではまず解決できないことなのに、なぎさは歪んだ家計、藻屑は歪んだ愛情のためにもがいてる姿が痛々しい。

また、亡くなった父の保険金を食いつぶす引きこもりの兄(なぎさは“貴族”と呼んで慕っている)や、普通の愛し方ができない藻屑の父、引きこもりの弟を持つ担任教師、好きな女の子のことを理解できなくて暴力をふるってしまう男の子etc.、脇役たちもみな、現代社会でよく見かける、どこか心を病んだ人ばかり。

人形のような女の子二人が、夢見るようにうっとりと抱き合う甘いカバーと扉絵ですが、テーマは子供の虐待という重いものです。
物語の始まりからは想像もつかない暗くて悲しい展開は、好き嫌いが分かれるかもしれません。
私としては、とても満足した作品でしたが。
そうそう、一つ難を言えば、文中のイラストが可愛すぎて、私の脳内イメージとはかけ離れていました。
なので、イラストがない版で読んだ方がよかったかも。




★★★★★




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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない  A Lollypop or A Bullet (角川文庫)砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)
(2009/02/25)
桜庭 一樹

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↑ライトノベル以外のレーベルからも出ています



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『赤朽葉家の伝説』桜庭 一樹  

赤朽葉家の伝説赤朽葉家の伝説
(2006/12/28)
桜庭 一樹

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出版社 / 著者からの内容紹介
「山の民」に置き去られた赤ん坊。この子は村の若夫婦に引き取られ、のちには製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれて輿入れし、赤朽葉家の「千里眼奥様」と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そしてニートのわたし。高度経済成長、バブル崩壊を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる3代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の血脈を比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。



面白かった! というか、楽しかった!
『このミステリーがすごい!』で2位になっていて、ずっと気になっていた本ですが、ちょっぴりファンタジー風味の大河ドラマに、がっつり引き込まれました。
ミステリじゃなくて。


舞台となっている山陰の村(のちに地方都市として描かれている)は、製鉄所とそこで働く人たちで発展、維持されてきたような土地。
製鉄所のオーナー、赤朽葉家の屋敷が高台の頂上にあって、『だんだん』と呼ばれるこの高台の斜面に社員や職工たちの官舎が職場での役職順に下に向かって広がってヒエラルキーみたいなものを構成している。
その描写は、『チャーリーとチョコレート工場』を連想させました。


物語の大筋は、終戦直後の高度成長期を描いた第1部、語り手の祖母・赤朽葉万葉の『最後の神話の時代』、第2部は'79~'98年のバブル全盛&バブル崩壊の頃に青春を送った母・毛鞠の『巨と虚の時代』、そして殺人の真相を追い求める第3部、現代を生きるニートの語り手・瞳子の『殺人者』。

ミステリだと思って読み始めたものの、強い女たちに支えられた旧家と、それを取り巻く人々のドラマが面白くて、第3部に至るまでミステリであることをすっかり忘れていました。
いや、最後まで読んでも、この作品をミステリのジャンルにくくるのはどうか、と思ってしまうんですが。

同時に、戦後50年の日本の変遷、価値観や生き様の移り変わりも細かく描かれています。
赤朽葉家の人々もそんな歴史の波に飲まれたり押し流されたりして、かつては小さな王国に君臨していた旧家も次第に姿を変えてゆく……その様子は興味深くもあり、寂しくもある様子です。



私的には、第2部の毛鞠ちゃんとドンピシャの同世代。
だからあの頃の若者が憧れた“カッコイイ”生き方っていうのもすごくよくわかるし、熾烈な受験戦争の陰で壊れてゆく若者や燃え尽き症候群、校内暴力、拝金主義、一攫千金などなど、実感を伴ってリアル。
この怒濤のような、良くも悪くも熱い毛鞠の時代の後、娘の瞳子は打ち込めるものもない冷めた青春を送っています。
第3部の中で瞳子が、母・毛鞠と同世代で無職の蘇峰と自分を較べて、

バブルを知る世代に特有の奇怪な前向きさを持ち続けているように見えた。彼の蘊蓄は、いまよりもいい暮らし、いまよりも満足できる文化に、自分という列車は必ずたどりつくという信念に裏打ちされているように思えてならなかった。それはわたしたちの世代にはない性質であった。わたしたちはそんな感覚はまるで知らない。すべてがあらかじめ終了したこの国をただ、漂うようにして、わたしは育ったのだ。



と表現している。

これにはハッとさせられました。
蘇峰はまるで私。
信念を持ち続けて、努力さえ怠らなければ、いくつになっても自分の未来はきっと明るいものだ、なんて、バブル時代の考え方のままでいたけれど、今はそんな時代じゃないんですね。



山陰の旧家+女3代+ミステリ、ということで横溝正史作品のようなドロドロを想像していましたが、笑いあり涙あり、友情やBL(?)あり、じゃぱゆきさんや不登校ありの読後爽快な作品です(意味不明な説明ですみません……)。
Amazonのレビューでは賛否あるようですが、私としてはオススメです。



★★★★★



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